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インターカルチュラル・シティ:活躍する外国人市民インタビュー【イヴ プラタール さん】

人が大事に思うものを作る満足感 音楽のまち・浜松での豊かな仕事

 「人々が大切にするものを作る。この仕事がとても気に入っています」。イヴさんはデザインという仕事を通して楽器の制作に携わり、かつ楽器から生み出される音、そして音楽のある豊かな生活をも人々に提供しているのです。

 このきっかけとなったのは浜松市に本社を置く楽器メーカーのヤマハ株式会社。イヴさんは7年間にもわたる長い間、ヤマハ楽器のデザイン部門で仕事をしていました。リーマンショックなど世界的に激動の時代を日本で過ごしてきたイヴさん。「私がヤマハで所属していた部署には外国人が常に3~4人いて、4年ほどで契約満了となるのが一般的です。定期的に新しい風を入れることが目的だと思います。でも私は時代背景やさまざまな理由により、レアなケースでしたが長期間ヤマハで仕事をすることができました。彼らの仕事はプロとして優れているし、尊敬しています。ビジネスの方法も時間をかけて物事を深めていくスタイルで、とても心地良くて好きです」。

 母国から遠く離れた浜松市。当初は縁もゆかりもないこの町で始まった暮らしですが、今は妻と二人の娘、そして自身が代表となって構えるデザイン事務所を拠点に快適な生活が続いています。

イブマリ デザインスタジオにて

創造する喜びに夢中だった幼少期 胸に秘めたデザインへのあこがれ

イヴさんはフランス生まれ。ビジネス、食事、映画など刺激的な文化を持つ大都市・リヨンからほど近くにあるボージョレ近郊の町で生まれました。ゆったりとした静かな田舎町です。

 幼いころは組み立て式のおもちゃ「メカノ」が大好き。パッケージには男の子が大好きなスポーツカーやバイクなどが猛スピードで駆け抜ける完成形が描かれています。ところがイヴ少年が組み立てるのはいつもパッケージとは違う姿。家族や親せきは「どうしてデザインのように作らないんだ?」と問いかけますが、イヴ少年はまったく耳を貸しません。「当時から自分のやり方でモノづくりをしたかったんです。それが楽しかったんですから」

 「いつかは自動車デザインの仕事に…」そんな未来を思い描いていましたが、父親は息子の夢を少し不安に思っていたそうです。高校進学時にはエンジニアリングを、そして大学では工学・ユニバーサルデザインを専攻。「父親を満足させる実用性がありながら、自分の心の中では工業分野にもデザインの仕事につながるものは必ずあると感じていました」

イヴさんが手掛けたデザイン(DOUZE Cycles(プロトタイプ))

超多忙な日々に対する違和感 転職で見えた好きな仕事のスタイル

大学を卒業する際、インターンシップとしてパリのデザイン事務所で働くことになったイヴさん。スタッフは6~8人程度と小規模でしたが、プジョーやタグ・ホイヤーなど世界中で人気を集めるブランドを顧客に持ち、また電子機器や家具など多岐にわたるデザインを手掛けている事務所でした。ここでの5年間は「厳しいプレッシャーの日々。ゆっくり何かを考える時間はありませんでした」と当時を振り返るイヴさん。デザインの分野でも2000年ごろはパソコンへの過渡期で、これまで手書きで行われていたことがデザインソフトの普及により業務内容が一変しました。当時の上司たちはそのギャップを埋めることができず、辞めていった人も少なくなかったそうです。

 そんなある日、スコットランドの友人から「こちらの生活は良いよ。おいでよ」と誘いがありました。超多忙な毎日に辟易していたイヴさんはパリを離れることを決意。企業インタビューをしながら3カ月かけてイギリスを巡り、ニューカッスルのデザイン事務所に転職することにしました。この事務所もまたパリと同じく工具やベビー用品など幅広い製品のデザインをしていましたが、大きな違いを感じたのは「使用性の追求」と「人とのつながり」。それは仕事の満足感につながるものでした。

この事務所はあいにく経営不振により退社することになりましたが、その時に出合った求人がヤマハ楽器のデザイン部門でした。

イヴさんが手掛けたデザイン(YAMAHA key between people)

違いがあってこそ日本 仏スタイルとの融合で新サービスを

「日本語は全然話せませんでした。でも、そんなことは全く気にならないぐらいヤマハでの仕事に魅力を感じたのです。知り合いが誰もいない国に行くことはイギリスで経験しましたから、それも問題ではありませんでした」。食文化はもちろん、企業の在り方などフランスとは大小さまざまに違いがある日本。そんな違いをイヴさんは「セ・ラヴィ」と表現します。例えば、何かと保守的な思考が強い日本ですが「それが無くなってしまっては、もはや日本ではないと思います。それと同様にほかのことも違いがあってこそ。そんな日本を受け入れて楽しむことが好きです」と話します。また「日本人はフランス人に対して好意的な人が多いように感じています。それは僕より先に日本に来たフランス人が僕にもたらした幸運です」とも。

「もっと浜松に携わる仕事がしたいですね」と意欲的に話すイヴさん。今後は自身の会社「イブマリ」をより大きく成長させ、日本人デザイナーを雇い入れたいとも考えています。日本とフランスの良いところを組み合わせて新しいサービスを提供することが現在の目標です。

(取材時期:2022年1月)

イヴ プラタール

フランス・リヨン市出身。機械工学と工業デザインを専攻し、2000年に卒業。パリやイギリスのデザイン事務所で働いた後、2007年からシニアデザイナーとしてヤマハ株式会社デザイン研究所で勤務する。2014年に浜松市でイブマリ・デザイン・スタジオを設立し独立。長年にわたるオーディオ機器、楽器、モビリティなどの製品開発において、確かな知識と経験を築いてきた。日本企業や国際企業に対し、独創的で適切なデザインを提案することを目標としている。